
新型コロナウイルス禍を経て、健康増進などの効果が表示された食品への注目が高まっている。なかでも「機能性表示食品」は国の審査が必要ないことから企業の参入が相次ぎ、市場規模は4年間で2倍以上に拡大。食品成分の分析計測機器に強みを持つ島津製作所も食品・飲料メーカーの開発支援に乗り出しており、高齢化も背景に、専門家は「健康食品の市場拡大は続くだろう」とみている。
島津製作所は3月、国の研究開発機関である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と共同で、京都市中京区の本社開発棟に「NARO島津テスティングラボ」を開設。食品・飲料メーカーの研究員が最新の質量分析計を利用でき、農作物などに含まれる健康にかかわる機能性成分の量を測定したり、香りの成分を評価したりできる。
島津が農研機構とともに開発した機能性成分300成分を一斉分析する手法によって、商品開発を迅速化できるのが大きな特徴。農研機構の食品研究部門エグゼクティブリサーチャーの山本万里氏は「網羅的に成分を分析できるので、これまで含まれていることに気づいていなかった成分も見つけられる」と強調する。
トマトジュースなどを展開するカゴメの研究者は3月からラボに入り、トマト原料の異臭発生の原因を探るための分析手法を1カ月で開発した。通常は数カ月かかるという。同社の担当者は「かすかな異臭から、よく似た複数の化合物を同時分析できる方法の開発を的確にサポートいただいた」と語る。
同社はさまざまな産地のトマトを加工してジュースを製造しているため、まれに製品に通常ではない臭いが発生することがある。開発した手法を使い、原料のトマトや土壌を分析して発生原因を特定できれば、より安定した品質の商品を消費者に届けられるようになり、健康にも寄与できるという。

メーカーが食品や飲料の分析を重視する背景には、機能性表示食品の市場拡大がある。機能性表示食品は企業の責任のもと、国の審査なしで健康への効果を表示できる制度として平成27年に始まった。審査のための臨床試験に巨額の費用がかかる「特定保健用食品(トクホ)」と比べてハードルが低いことから多くの企業が参入。消費者庁への機能性表示食品の届け出はすでに6千件を超えている。矢野経済研究所によると、平成30年度に2240億円だった市場規模はコロナ禍で急速に拡大し、令和4年度の見込みは倍以上の4692億円となった。
近畿大農学部の森山達哉教授は「当初はメタボ関連の商品が人気だったが、今は免疫に関するものに(消費者の関心が)シフトしている」と指摘。ただ機能性表示食品は、国の審査がないことから科学的根拠に疑問符が付くケースが散見されており、森山教授は「島津のラボを活用して高度な分析を行った商品であれば、有効成分の含有量などの信頼性が高まるのでは」と話した。(桑島浩任)