「おかあさん、きょう、ごはんあるの?」
「えっ…!? あるよ~、いっぱい炊いてあるよ~」
これは、40年以上前のバスの車内での母と私の会話。母は、バスの乗客からの視線が気になり居たたまれなくて「顔から火が出そうだった」と当時のことを思い出して泣き笑いしながら話すことがありました。
母と私は自宅から離れた保育園と職場へ向かうため毎朝バスを利用していました。
私が子供の頃のわが家では、朝に夕食分もご飯を炊いておいて炊飯器で保温された少し黄ばんだご飯を夜に食べることが多くありました。夕方の帰宅後に忙しく炊飯の支度をしなくて済み、母との食事の時間を長く過ごせます。
当時のバスの車内での母を思うと私も汗が吹き出てきそうですが、5歳の私は、ご飯を炊かなくていいのかを確認したくて出た言葉だったと思います。きっと。
わが家は母1人、子1人の家庭でした。私は母とずっと一緒にいたいといつも思っていました。職場へ向かう母と離れるのが悲しくて、保育園も行きたくないと泣いては、「おかあさんはなみだないの? ともちゃんはかなしくてなみだいっぱいでてくるよ」と言い、母は泣く泣く職場に向かったこともあったそうです。
バスを利用したときに、幼いお子様とそのお母様を見る度に思い出す2つの出来事です。まだまだ母と一緒にいたかったのですが、7月には母の三回忌を迎えます。5月の母の日には優しくほほ笑む写真の母にカーネーションの花束を飾ります。
山崎智子(50) 仙台市宮城野区