
燃料費の高騰や深刻な人手不足が、地域の「足」に影響を及ぼし始めている。大阪府富田林市など4市町村を中心に路線バスを運行する金剛自動車(同市)は、12月でバス事業を廃止すると発表。都市部から比較的近い地域での全15路線の廃止は、地元住民や関係者に衝撃を与えた。国は自動運転の実証実験を進めるなどしているが、運転手の残業規制が強化される「2024年問題」が迫る中、公共交通の在り方が改めて問われている。
「もう限界です」
12日、記者会見した金剛自動車の白江暢孝社長(39)は苦渋の表情で社の窮状を訴えた。
大正14年創業の同社の路線バスは「金剛バス」の愛称で親しまれ、近鉄長野線の富田林駅などと各地を結んでいる。太子町と河南町では同社が唯一の路線バスだ。
8月の平日利用者数は全路線で約2600人だが、平成25年度の乗客が約172万人だったのに対し、令和3年度は約106万人と約4割も減少。安全運行には約30人の運転手が必要だが、現在は20人(うち3人は他社からの派遣)で、過去3年間は赤字だったという。

運行する4自治体からは補助金交付も打診されたが、最終的には断ったという。白江社長は「今後の運転手確保の見通しも立たず、補助金だけでは根本的な問題解決にならない」と述べ、バス事業が直面している厳しさを強調した。
トラックやタクシー、バスなどの運転手不足は全国的に深刻な状況だ。国土交通省によると、全国の路線バスの運転手の数は平成30年度は8万4020人だったが、令和3年度は約1万人減の7万4340人。大型2種免許の保有者も減少しており、警察庁の統計では20~30代の保有者数は10年前の半分の3万5740人だ。
背景には、人手不足なのに賃金が低水準に抑えられている現状がある。近畿大学の高橋愛典教授(地域交通論)は、「バス事業のコストの大部分は人件費で、乗客数が減る中、長時間労働なのに給与が抑えられてきた。若者などに魅力のある職場として映らないのではないか」と指摘する。
平成12年からの規制緩和でバス事業には新規参入が相次ぎ、競争が激化した。投資は設備に振り向けられてきた中、人手不足でも賃上げが難しい事業者は多い。国交省は運行補助などの支援のほか、運賃改定の申請を促すなどして「地域の足」維持を模索している。
ドライバーを巡っては、来年4月から残業時間の上限が年間960時間に規制されることで人手不足が一層深刻化し、需要に合わせて人やモノを運べなくなる「2024年問題」が懸念されている。人手不足への対応は待ったなしの状況だ。
国交省は令和7年度までに、運転手が乗らなくてもよい「レベル4」の自動運転を全国50カ所で実現させようとしている。運転手不足の解消に向け、外国人労働者の活用についても検討中で、一般ドライバーが自家用車を使って有償で乗客を送迎する「ライドシェア(相乗り)」の本格導入をめぐる議論も活発化している。
金剛バスの撤退を受け、4市町村は他のバス事業者に運行引き継ぎを要請。自治体が事業主体となって交通事業者と輸送契約を結ぶ「コミュニティーバス方式」を採用する見通しだが、既存路線や便数の維持は困難とみられ、地域経済の衰退や過疎化が進む可能性もある。
高橋教授は「地域の公共交通には税金である補助金が入っている場合もあり、普段から住民も関心を持つことが重要だ」と指摘。「自治体も運行事業者とコミュニケーションを密にして課題を早期に共有、対処していく必要がある」と話している。(小泉一敏)