端正ながら若々しい表現 五劫院朝日の地蔵菩薩

五劫院朝日の地蔵菩薩

五劫院の見返り地蔵菩薩の東側には、朝日地蔵といわれる蓮華座(れんげざ)上に立つ地蔵菩薩があります。総高約200センチ、像高約152センチ、花崗岩(かこうがん)製です。その下端には剣状に意匠し、蓮弁周囲を縁取りにした覆輪(ふくりん)の単弁を並べる蓮華座を刻んでおり、舟形光背に立像を厚肉彫りしています。

光背上端中央近くに阿弥陀如来種子「キリーク」を薬研彫りにしており、衆生に極楽引接の願いを込めた地蔵菩薩の姿と見ることができます。体躯(たいく)は撫肩の痩身(そうしん)ですらりとした姿態であり、表現は定型的な像容で、頭部はやや大きく見えます。面相は目尻が長く切れ込んで涼しい眼が浅く彫り沈められ、端正ながら若々しい表現が優れています。持物は通有の形です。右手に錫杖(しゃくじょう)、左手に宝珠(ほうじゅ)が見られますが、宝珠には細かい蓮華座が表現されています。

衲衣紋(のうえもん)の表現は線刻を交えた平板的な感じがして、写実性にはやや欠けます。紀年銘はありませんが、室町時代中期と考えられます。光背面左右に刻銘があり、左側「三界万霊」、右側「念仏講中」とはっきりと陰刻銘文され、下部面には左右ともに小さい文字で結縁者の名前がたくさん刻まれています。

五劫院墓地には地蔵菩薩十王像があり、花崗岩製、総高約200センチ、像高約145センチ、厚肉彫りの像容です。通有の右手錫杖、左手宝珠の地蔵菩薩立像です。その光背の左右両脇に像高約27センチの十王像が5体ずつ配されます。室町時代中期とみられます。

このほか阿弥陀如来種子板碑は自然石安山岩製、総高約95センチ、幅約67センチ。中央に蓮華座上の月輪(がちりん)内に阿弥陀如来種子「キリーク」を刻み、左側「念仏講中為仏恩二親法界」、右側「天正九辛巳(1581年)七月十五日」とあり、下部面に結縁者名が刻まれます。六字名号板碑は総高約145センチの板碑型式、中央に「南無阿弥陀仏」、その左側「念仏講中」、右側「天正五丁丑(1577年)七月十五日」銘があります。(地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)